製造業における情報発信は、いま大きな転換点を迎えています。
これまで「営業は足で稼ぐ」「技術は見れば伝わる」とされてきた業界においても、
SNSという新たな手段が、採用・販路拡大・ブランディングといった全方位的な成果をもたらすようになりました。
本記事では、「製造業におけるSNS活用術」と題し、なぜ今SNSなのか、
どのように運用すべきか、そしてどんな成果が期待できるのかを、事例と実践の視点から
詳細かつ実務的に解説していきます。
本気で製造業の価値を社会に伝えたい方、自社の技術に誇りを持ち、未来の採用や顧客を見据えている方にこそ、読んでいただきたい内容です。
なぜ今、製造業にSNSが必要なのか?
2020年代に入り、SNSは単なる消費者向けのツールから、製造業を含むBtoB業界の成長戦略に欠かせない「社会的接点」となりました。従来、製造業における情報発信は、展示会・営業訪問・FAX・業界誌などが主流でしたが、コロナ禍以降の非対面化とデジタルシフトが一気に加速し、その流れは戻ることなく定着しています。
この変化は、製品PRのみならず、採用活動やブランディング、パートナー開拓にも影響を及ぼしています。特に注目されるのが、「企業そのものを“見つけてもらう”」というパラダイムシフトです。SNSは広告とは違い、ユーザーとのコミュニケーションを通じて双方向性を育むことができ、たとえばLinkedInを使えば海外企業の購買担当者から直接コンタクトが入る、という事例も増えています。
SNSが製造業にもたらす5つの戦略的価値
- 認知拡大(展示会依存からの脱却)
- 採用競争力の強化(Z世代への接触)
- 製品理解の促進(動画による視覚訴求)
- ブランド・企業文化の発信(信頼構築)
- 営業効率の最適化(顧客が見つけに来る仕組み)
これまでの「待ちの営業」から、「選ばれる企業」へとシフトするための橋渡し役こそがSNSなのです。
BtoB製造業におけるSNSの選定とその活用戦略
製造業においてSNSを活用する際、第一に考えるべきは「誰に・何を伝えたいのか?」という点です。たとえば、自社が高精度の部品加工技術を有する場合、その価値は一般消費者には伝わりづらくても、調達担当者や技術系バイヤーには刺さる情報となります。こうした文脈で有効に活用できるのが、LinkedInやFacebookといった“実名制・業界関係者向け”SNSです。
LinkedIn:海外顧客との接点強化に最適
LinkedInは、欧米を中心に業界のプロフェッショナルが集うSNSです。特にBtoB企業にとっては、営業の新しいチャネルとして注目されています。以下のような活用法が考えられます。
- 製品スペックや開発背景を紹介する英語投稿
- 海外展示会参加報告と合わせた動画や写真の掲載
- 技術者同士のネットワーキングや社内エンジニアの声の発信
LinkedInの最大の武器は「検索性」と「信頼性」です。調達担当者は、GoogleではなくLinkedInで企業や製品を調べる傾向もあり、ここでの存在感が“海外案件の第一歩”になる可能性を秘めています。
Facebook:企業の“顔”を世界に届ける
日本国内ではやや落ち着きつつあるFacebookですが、東南アジアや欧米ではいまだ強力な情報源です。製造業では以下の活用が有効です。
- 社員の声や社内行事を通じて「働く場としての魅力」を発信
- 工場見学のような動画を投稿し親近感を創出
- 海外代理店との連携や納品実績のアピール
Facebookは実名制とコミュニティ性が高く、「人が見える投稿」がユーザーに安心感を与えるのが強みです。
SNSは選ぶのではなく、使い分ける
製造業においては、SNSを単独で運用するよりも、目的ごとに複数併用するのが効果的です。
目的 | 最適なSNS |
---|---|
海外営業 | |
社員採用 | Instagram・X(旧Twitter) |
商品プロモーション | YouTube・Facebook |
展示会集客 | Facebook・LINE |
社内広報 | Facebook・Instagram |
つまり、SNSは「単なる広告媒体」ではなく、「用途別に戦略的に使い分けるコミュニケーションツール」なのです。
製造業がSNSで発信すべきコンテンツとは何か? 〜信頼を得る投稿とファンを生む工夫〜
SNSで成果を出すための本質は「情報の共有」ではなく「関係性の構築」
製造業にとってSNSは、単に製品情報を発信する場ではありません。むしろ、その会社が何を考え、どう働き、どんな価値を提供しているのかという「人格」を形づくる場です。特にBtoB領域では、製品スペックだけで競合と差別化するのは困難であり、「誰が作っているのか」「どのような背景があるのか」といった情緒的価値が、購買行動に影響を与えます。
では、具体的に製造業がSNSで発信すべきコンテンツとは何か? 重要なのは以下の6カテゴリに分類することです。
製品・サービス紹介:スペックだけでなく“用途・事例・ストーリー”を語る
SNSでの製品紹介は、カタログ的なスペック羅列では効果を発揮しません。大切なのは「誰の、どんな課題をどう解決するか」という文脈で語ることです。以下のような切り口が効果的です。
- 「この機械が導入されたことで〇〇社の生産性が30%向上しました」
- 「製造ラインの〇〇工程で使われています。導入前後のビフォーアフターはこちら」
- 「創業以来この精度を守ってきました——動画で職人の技をご覧ください」
重要なのは、「売り込み感」を消し、共感や納得に誘導するストーリーテリングの設計です。
製造プロセスの可視化:”作る過程”が最大のエンタメになる
製造現場というのは、外部の人間にとっては非日常であり、それ自体が“コンテンツ”になり得ます。たとえば、次のような素材がSNS上で人気を博しています。
- 金属を削る瞬間をスローモーションで撮影した映像
- 工場の機械が稼働するタイムラプス
- 工員が手作業で行う組み立ての様子
- 完成品が出来上がる「一連の流れ」を15秒動画で紹介
YouTubeショートやInstagramリールに最適な素材となり、BtoBでも視覚的な信頼構築が可能になります。製品を「知ってもらう前に、好きになってもらう」ことが狙いです。
社員や社内カルチャー紹介:採用とファン育成の一石二鳥
製造業では、「どんな人が働いているか」「どんな文化があるか」が見えづらいのが課題です。SNSを通じて社内の雰囲気や人間関係を発信することで、求職者に安心感を与えたり、既存顧客に信頼を与えたりできます。
- 社員インタビュー「この仕事に誇りを持てる理由」
- 勉強会や安全大会など、職場の学びの様子
- BBQや花見など社内行事の動画(プライバシー配慮のうえ)
- 経営者の価値観を語るポスト(LinkedIn向け)
中小製造業ほど、代表者の“人となり”が企業ブランディングに直結します。顔出しに抵抗がなければ、経営者自ら発信するのも非常に効果的です。
イベント・展示会情報:参加前と参加後、両方のタイミングを逃すな
展示会はSNSと最も親和性の高いマーケティングイベントです。展示前・展示中・展示後で分けて投稿すると、最大限の効果を発揮できます。
- 【事前】出展のお知らせとブース番号、来場予約リンク
- 【当日】設営風景、現地スタッフの紹介、来場者との写真
- 【事後】来場御礼・展示製品に関する解説動画・資料配布の誘導
とくにX(旧Twitter)やFacebook、LinkedInでは、業界イベントのハッシュタグを活用することで、業界関係者からの流入も見込めます。
課題解決・技術解説系:BtoBならではの専門知識を“やさしく見せる”
例えば、加工精度の違いによる成果差や、材質選定に関するナレッジ、あるいは開発工程のトラブルとその解決法など、製造現場での“知恵”はSNS上で求められています。
- 「〇〇材の溶接では、気をつけるべき3つのポイント」
- 「異音が出る原因は、ベアリングのこの設計かもしれません」
- 「うちはこうしてリードタイムを10日短縮しました」
技術者や調達担当者が“Bookmark(保存)したくなる”情報は拡散や共有の対象になります。
求人コンテンツ:募集要項よりも「働く姿」を見せる
求人コンテンツで重視すべきは、給与や待遇ではなく、「自分がここで働いたらどんな日々になるのか」がイメージできる投稿です。
- 若手社員の1日のスケジュール紹介(動画で可視化)
- 配属先の現場の空気感を伝える写真
- 経営者の「こういう人と働きたい」という熱い想いの発信
- 社員の声や入社理由のリアルな言葉
企業理念や組織文化に共感してもらうことが、長期的に活躍する人材の採用につながります。
SNSにおける“投稿設計”のポイント
SNS投稿は単に写真や文章を投下するだけでなく、「誰に、何を、なぜ伝えるのか?」を明確にしたうえで、次のような工夫が必要です。
- 投稿の導線設計:プロフィール欄にWebサイトURLやお問い合わせフォームを記載
- CTA(Call To Action):投稿の最後に「詳しくはプロフィールへ」などの行動喚起を添える
- タグ活用:業界ハッシュタグ、展示会公式タグなどを併用
- 頻度とリズム:週2〜3回の定期更新が理想。無理のないスケジュールを設定
製造業におけるSNS発信の要諦は、「情報提供」ではなく「関係構築」です。製品を売る前に、自社という“人格”を認知してもらうこと。企業が語るより、現場の社員が語るほうが信頼されるのが今の時代です。どれほど技術力に優れていても、SNSで“存在していない”企業は、顧客にとっても「いない」のと同じ。そう考えるべきフェーズにきています。
製造業におけるSNS運用体制の構築と担当者の選定戦略
SNS活用は「担当者のセンス」に依存する時代ではない
SNS運用というと、しばしば「センスのある若手に任せればよい」「暇な人が片手間でやればよい」という誤解がなされがちです。しかし、製造業においてSNSは、採用・販促・広報・営業と多岐にわたる機能を果たす“デジタルフロント”です。言うなれば、毎日メディアに自社が登場するようなものであり、発信ひとつが商談を生むこともあれば、信用を損なうこともあります。
SNSはもはや「広報ツール」ではなく、「経営戦略の一部」なのです。そのためには、属人的な発信に依存しない体制設計が不可欠であり、組織としての意思と仕組みをもって取り組まなければ、長続きしません。
SNS運用に必要な5つの社内体制
製造業がSNS活用を本格化させるには、以下の5つの体制が必要です。どれか1つでも欠けると、炎上・離脱・頓挫のリスクが高まります。
経営陣の理解と関与
SNSはコストのかからない広告媒体ではなく、「ブランドをつくる投資」です。トップがSNSを軽視している企業では、運用担当者のモチベーションも続きません。以下のような姿勢が求められます。
- SNS施策を「経営課題」として認識する
- 担当者を守り、評価する仕組みを構築する
- ときに自らが発信者となり、“会社の声”を届ける
SNSは“社長が語る言葉”がもっとも強く響くメディアでもあります。
社内の協力体制とネタ共有文化
SNS運用において、最大の壁となるのが「ネタ不足」です。運用担当者だけでコンテンツを生み出し続けるのは不可能です。現場からの情報提供がなければ、継続的な運用は破綻します。
- 製造現場や営業から写真・動画・エピソードを共有
- ネタを募るための「社内SNS投稿ネタ募集箱」などの仕組み
- ネタを提供した社員には小さなインセンティブや表彰を
会社全体で「SNSは皆のもの」という文化を育てる必要があります。
明文化されたSNSポリシー(投稿ルール)
SNSはリスクの塊でもあります。不用意な発言や不正確な情報が、炎上や信用失墜につながるケースも少なくありません。そのため、運用に先立ち「SNS運用ガイドライン」を必ず整備すべきです。
ポリシーに盛り込むべき項目は以下の通りです。
- 禁止事項(個人情報、差別表現、誤情報など)
- 承認フロー(誰が内容を確認して投稿OKを出すのか)
- コメント対応ルール(否定的な反応への対処方針)
- 投稿内容の優先順位やコンテンツ方針
特に中小企業では「社長のひとこと」がそのまま投稿されるケースもありますが、チェック体制があってこそ、SNSは武器になります。
担当者の適正と育成
SNS担当者は「若いから」「時間があるから」だけで任せるべきではありません。SNSは“言葉と空気のメディア”であり、発信者の感性と知性が問われます。適任者には以下のような資質が求められます。
- 企業の理念や製品の理解がある
- コミュニケーションに誠実で、表現力がある
- リスク感度が高く、炎上に対して冷静な判断ができる
- 継続力があり、数ヶ月単位で計画を立てられる
また、担当者に任せきりにせず、経営層が定期的にレビューし、成果や悩みに耳を傾ける文化が重要です。
効果測定とフィードバックサイクル(PDCA)
SNSは感覚だけで運用すると、やがて「なにが正解かわからない」状態に陥ります。そのため、以下のようなKPIを用いた定量・定性の両面からの分析が必須です。
- フォロワー数、インプレッション数、エンゲージメント率(いいね・RTなど)
- 投稿ごとの反応傾向
- Webサイトへの流入数やCV(問い合わせ、資料DLなど)
- 反響の声(コメント・DM内容)
これらを毎月レポートとしてまとめ、社内で共有することで、運用の透明性が高まり、改善点が見える化されます。
SNS担当者を“孤立させない”ことが長続きのカギ
SNS運用は想像以上に精神的負荷がかかる業務です。特にBtoB製造業では「何を投稿していいのかわからない」「社内からの理解がない」「炎上が怖い」といったプレッシャーを感じて辞めてしまう担当者も少なくありません。
だからこそ、
- 「SNSは1人の担当者に背負わせるものではない」
- 「社内で継続的にフォローする体制を作る」
ことが極めて重要です。
例えば、「SNS委員会」を設置して週1でネタ出し会議をしたり、複数名体制でローテーション投稿にするなど、“継続できる体制”に設計することが最終的な成功につながります。
SNSを「続けられる企業」と「続けられない企業」の違いは、技術力でも業種でもなく、「体制設計の有無」です。人材・ルール・文化を整えた企業だけが、SNSという長期戦を勝ち抜きます。製造業にこそ必要なのは、“たまたまうまくいく”SNSではなく、“しくみで勝つ”SNS運用なのです。
製造業におけるSNS活用の成功事例と導入効果
SNSは“地味な業種”の認知を爆発的に変えるツールである
「うちはニッチな加工業だからSNSなんて関係ない」
「BtoBの機械なんて誰も見向きしない」
そう考える製造業経営者は少なくありません。しかし、SNSの本質は「世の中にまだ知られていない価値を届けること」にあります。製造業の強みは“見ればわかる品質”と“語れば伝わる職人性”。SNSはその両方を「見せて」「語る」最適な場所です。
では、SNSを戦略的に活用して成果を挙げた企業は、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?
成功事例①:フジ産業株式会社|機械製造業 × Instagram × 親しみやすさ
事業内容:長尺材の工作機械オーダーメイド製造
活用SNS:Instagram・Facebook
戦略ポイント:専門性と親しみの両立
フジ産業は、いわゆる一般消費者にはなじみのない「長尺材加工機械」の製造メーカーです。しかしInstagramでは、製品紹介だけでなく、納品風景・会社イベント・BBQ大会・勉強会など、人間味のある投稿が目立ちます。
- 製品の導入事例を「納品しました!」という日常語で発信
- 社員の笑顔、作業風景、社内行事で“企業の素顔”を見せる
- 加工風景や精密な部品のアップ写真で“技術力”を可視化
これにより、「難しそう」「堅そう」という製造業のイメージを柔らかくし、求職者・協力会社の両方からの反響を得ることに成功しています。
Instagramアカウント:https://www.instagram.com/fuji_sangyo
成功事例②:ナブテスコ株式会社|BtoB大企業 × キャラクター運用 × 情報発信
事業内容:精密減速機・自動ドア・モーションシステム等の製造
活用SNS:Twitter(現X)・Facebook・YouTube
戦略ポイント:ブランディングと“愛される発信”
ナブテスコでは、自社キャラクター「ナブテスコモンスターズ」を活用しながら、社員紹介・製品紹介・プレゼント企画・イベント告知など、多角的な発信を展開しています。
- 技術解説や工場紹介に“キャラ”を絡め、読みやすくユーモラスに
- Twitterではユニークな視点で投稿、プレゼントキャンペーンも実施
- YouTubeでは会社紹介やテクノロジー解説をわかりやすく動画化
フォロワー数は1万人を突破し、特に若年層や求職者への企業認知に効果を上げています。**“伝えるべきことを、伝わる形で発信する”**というSNSの本質を体現した事例です。
Twitter:https://twitter.com/Nabtesco_corp
成功事例③:クラレ|素材メーカー × YouTube × グローバル採用
事業内容:化学繊維・合成樹脂等の製造
活用SNS:YouTube・Facebook・LinkedIn
戦略ポイント:映像表現とアルムナイ施策
クラレは、CM「ミライバケッソ」で知られる企業ですが、YouTubeではテレビCMにとどまらず、製造現場の様子・社内紹介・企業理念の映像化まで積極的に行っています。
また特徴的なのが「アルムナイSNS」制度。退職者向けの専用SNSを構築し、出戻り採用やOB/OGとのつながりをSNSで維持するという試みです。
- ブランド訴求 × 採用ブランディングを両立
- 動画で経営哲学や技術を“体験的に”伝える
- SNSが“社員の出口”と“入口”の両方を支えるツールに
採用にSNSを用いることで、入社前のカルチャーギャップを減らし、ミスマッチのない“戦力化された人材”確保に貢献しています。
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCZ1_x1mMHXG4QW83uJtcqJg
成功事例④:三陽工業|町工場 × TikTok × 求人強化
事業内容:金属部品製造
活用SNS:TikTok・X・Instagram
戦略ポイント:「共感」を生む動画ブランディング
三陽工業では、“働くおじさん達”が登場するTikTok動画がバズり、フォロワーと求人応募数が飛躍的に増加したことで知られます。
- 作業服姿のリアル社員が、笑いあり涙ありの動画で登場
- 応募者は「この会社、楽しそう」とDMでエントリー
- 結果、求人広告費が削減されながら採用力がアップ
SNSによる求人効果の最たる例であり、**「企業に共感してから応募する時代」**への転換を象徴する存在です。
TikTok:https://www.tiktok.com/@sanyoukougyou
SNS導入によって得られた“効果の本質”
以上の事例から、SNSが製造業にもたらす導入効果は、単なる「認知度アップ」にとどまりません。下記のような成果が各社で報告されています。
効果 | 説明 |
---|---|
採用力の強化 | 求職者が“中の人”に触れてから応募する時代にマッチ |
商談率の向上 | 製品説明だけでなく“ストーリー”を語れることで印象に残る |
ブランド価値の形成 | 小さな町工場も“熱量ある企業”として見られる |
海外展開の加速 | FacebookやLinkedInで海外企業からの問い合わせが発生 |
組織内の一体感醸成 | 社内報的に活用することで全社員が“当事者意識”を持つ |
SNS活用の成功には、「継続」「共感」「可視化」という3つのC(Continue・Connect・Clarify)が不可欠です。
製造業がSNSを活用することで得られる最大のリターンは、「知られていなかった価値を、必要な人に届けられるようになること」です。製造業は本来、誠実なものづくりをしている企業ばかりです。その価値を、言葉と映像で語れるSNSは、単なる流行ではなく「製造業が社会とつながる主戦場」になりつつあります。
製造業におけるSNS活用の課題と今後の展望 〜成果を持続可能にするための次なる戦略〜
なぜSNSは“始めること”よりも“続けること”が難しいのか?
製造業においてSNSは今や「あると便利なもの」ではなく、「なければ機会を失うもの」へと変わりつつあります。しかし、実際に多くの企業が直面しているのは「数ヶ月で止まってしまう」という壁です。これは単に担当者の問題ではなく、組織全体の“設計不足”が根本原因です。
SNS活用には明確なメリットがある一方、いくつかの構造的課題も存在します。本章では、その課題と対応策、そして製造業におけるSNSの今後の進化を展望として提示します。
製造業におけるSNS運用の3大課題
リソースとノウハウの不足
製造業では多くの現場が多忙であり、SNSを担当できる人材に時間的余裕がありません。また、運用ノウハウも他業種に比べて社内に蓄積されづらく、個人のスキルや勘に依存してしまう傾向があります。
対応策:
- 業務の一環としてSNSを“業務化”する(KPI設定・工数配分)
- 定例のSNSミーティングを設け、継続のリズムを作る
- 外部パートナー(運用代行・コンサル・制作会社)の導入も検討
ネタの枯渇と“何を投稿すべきか”問題
投稿内容のマンネリ化はモチベーション低下につながります。特に製造業では技術的な内容が多く、「誰に伝わるのか?」という疑念を抱きがちです。
対応策:
- 投稿ジャンルを6〜8のカテゴリに分けてローテーション化
- 過去の投稿を再編集して“二次利用”する
- 社内外の“問いかけ”を投稿ネタに活用(例:「よくある質問」「新人の視点」など)
否定的反応・炎上リスクへの過敏さ
「投稿して批判されたらどうしよう」「製品ミスが拡散されたら困る」といった懸念から、企業が投稿を萎縮してしまうケースは後を絶ちません。
対応策:
- SNSポリシーを明文化し、投稿前に“合議制”でリスクチェック
- 炎上時の初動対応マニュアルをあらかじめ策定
- ネガティブコメントを「改善の種」として社内にフィードバック
SNSは「炎上が怖いから投稿しない」ではなく、「投稿しなければ何も起きない」という“無風のリスク”の方が大きいのです。
SNSを「短期施策」から「企業文化」へ昇華させる
製造業にとってSNSが真に機能するのは、それが「一担当者の業務」ではなく「会社のDNA」になったときです。たとえば、以下のような状態を理想とすべきです。
- 「今日のいい写真が撮れたから、SNSに出しましょうか」と社員が自然に声をかける
- 部署横断で「今週は技術課が担当、来週は品質管理課」という投稿ローテーションがある
- 経営者が定期的に“想い”を発信し、社内外に一貫したメッセージを届ける
SNSが“属人性”から“組織性”へ進化すること。それが、BtoB企業の競争力を支える情報発信文化の第一歩となります。
今後の展望:製造業×SNSはどう進化するか?
動画・ライブ配信が主流へ
短尺動画(Instagram Reels、YouTube Shorts、TikTok)やライブ配信(LinkedIn Live、Instagram Liveなど)は、現場の“臨場感”をリアルに伝えられるため、製造業との親和性が極めて高い手法です。
- 製造ラインの1分間紹介
- 展示会からのライブ中継
- 工場長や職人によるQ&A配信
これらは、信頼と共感を高める“リアルな証拠”として、テキストや画像以上に効果的です。
海外展開の加速にSNSが不可欠に
製造業の多くは、今後さらに海外市場への依存度を高めていくことが予想されます。そんな中、LinkedInやFacebookを使ったプレゼンスの可視化は、営業チャネルそのものとして機能します。
たとえば、
- 海外のバイヤーがLinkedIn経由で問い合わせ
- 多言語での製品動画をFacebook広告に活用
- 英語SNSアカウントで外国人エンジニアを採用
といった事例は、すでに中堅中小企業でも始まっています。
採用・人材定着への寄与
今後ますます“採用マーケティング”としてのSNS活用が拡大します。採用活動は、求人票や会社説明会だけでなく、日々の発信が「働くイメージ」を形成する要素になります。
- SNSで職場の雰囲気に触れた学生が「安心して応募」
- 働き方や福利厚生が投稿から伝わり、入社後のギャップを減少
- SNS上で社員が会社に誇りをもって自発的に投稿
SNSは、企業の“広報”から“採用”、“定着”まで横断的に機能し始めています。
SNSは“見られる場所”ではなく、“信頼される場所”へ
かつて製造業が展示会で名刺を交換していたように、今はSNSで情報を交換する時代です。違いは、「情報が24時間365日、常に世界に向けて開かれている」ということ。そして、「その姿勢そのものがブランドになる」という点です。
SNSとは、「何をつくるか」だけでなく、「どう伝えるか」「なぜ作っているのか」までを語れる場所です。製造業の誠実さ、技術力、人間性。それを可視化するためのツールとして、今後もその重要性は増していくでしょう。
製造業の未来は「静かなる発信」から生まれる
どれだけ優れた製品も、知られなければ存在しないも同じです。
どれだけ魅力的な企業文化も、外に語られなければ伝わりません。
製造業がSNSに取り組むということは、社会に対して誠実に、自らを語る覚悟を持つことです。
それは、次の採用に、次の商談に、次のパートナーシップに、確かにつながっていきます。
SNSは「情報発信の技術」ではなく、「信頼形成の文化」なのです。