「展示会で名刺は集まったが、商談につながらない」
「見込み客へのアプローチが属人化し、営業効率が上がらない」
そんな課題に直面している製造業の企業は、決して少なくありません。
かつては技術力や製品性能が営業の“切り札”でしたが、今や顧客は自ら情報を収集し、比較検討を進める時代。営業担当が初めて接触したときには、すでに候補が絞られている──そんな状況が当たり前になりつつあります。
こうした環境変化において注目されているのが、「リードナーチャリング」という戦略です。見込み客(リード)を獲得するだけでなく、継続的なコミュニケーションを通じて購買意欲を高め、確度の高い商談へと育成するプロセス。それこそが、営業効率を劇的に改善する鍵となります。
本記事では、製造業におけるリードナーチャリングの基礎から具体的な手法、国内企業の成功事例、ツールの活用方法までを【2025年最新版】として網羅的に解説します。属人的な営業活動から脱却し、仕組みとして“売れる状態”を作りたいと考える方に向けた、完全ガイドです。
製造業が直面する「売れない時代」における解決策としてのリードナーチャリング
製造業における営業・販促活動は、ここ十数年で劇的な変化を遂げました。特にコロナ禍以降は対面営業や展示会といった従来の手法に制約がかかり、オンラインシフトが急速に進展しました。この変化のなかで、かつて「良い製品さえ作っていれば売れる」と信じて疑わなかった製造業界も、次第にマーケティングの必要性に直面するようになります。その中心にあるのが「リードナーチャリング」です。
リードナーチャリングとは、すでに獲得した見込み客(=リード)に対して段階的にアプローチしながら、購買意欲を高めていくプロセスのことです。特にBtoB商材、そして検討・導入までに時間を要する製造業の商材においては、この“育成”の視点が不可欠です。なぜなら、リードを獲得したとしても、すぐに受注につながることはまれだからです。むしろ、放置してしまうことで他社に流れたり、記憶から薄れてしまったりする方が多いのが現実です。
ここで重要な点は、リードナーチャリングが「売り込むための手法」ではなく、「顧客と関係を築き、信頼を獲得するための戦略」だという認識です。メールを送る、セミナーを案内する、電話をかける──そうした施策一つひとつに意味はありますが、それが“売るためのテクニック”に終始していては、製造業が本来持つ技術力や信頼感といった資産を活かしきることはできません。
では、なぜ今、製造業においてリードナーチャリングが注目されているのでしょうか。その背景には3つの要因があります。
第一に、「買い手の購買行動の変化」があります。今や顧客は営業担当者の説明を待たずとも、インターネットを使って事前にあらゆる情報を調べ、自分なりの判断基準を持って意思決定を行います。製造業における技術導入や設備更新といった大きな買い物でも、Web上での情報収集は当たり前となりました。つまり、企業側が一方的に情報を提供し、商談に持ち込むだけのプロセスでは、もはや顧客の検討プロセスに入り込むことはできないのです。
第二に、製造業ならではの「導入サイクルの長さと複数の関係者による合意形成」が挙げられます。製品選定においては、現場担当者、技術責任者、経営層など、複数の意思決定者が関与するため、短期間でのクロージングは現実的ではありません。このような構造においては、一度得たリードを丁寧に育て、関係性を維持するアプローチが必要不可欠です。
そして第三に、「既存営業体制の限界」があります。特定顧客との関係強化に注力するルート営業は、確かに安定した売上基盤を支えてきましたが、それだけでは新規市場の開拓や顧客層の拡大には限界があります。新たな販路を築くには、Webを中心としたマーケティング施策との連携、特に「営業活動の前段階」としてのリードナーチャリングが求められるのです。
たとえば、展示会やセミナー、資料請求で獲得した名刺情報を眠らせるのではなく、ニーズに応じたメール配信やWebコンテンツの案内を通じて、「思い出してもらう」「知識を深めてもらう」「信頼を蓄積する」といったアプローチを継続していく。それによって初めて、競合との差別化が図れ、「今、相談したいのは御社です」と言われる可能性が生まれるのです。
製造業において、営業は“個人の関係構築力”に頼ってきた側面があります。しかし、現在はその属人的な力だけではカバーしきれないほど、情報量も顧客の選択肢も増えています。ナーチャリングとは、その限界を乗り越え、組織全体で「売れる仕組み」を築くための一歩なのです。
次回は、具体的なリードナーチャリングの手法──メール、セミナー、インサイドセールス──について深掘りし、製造業にとってどの手法がどんな課題に効果を発揮するのかを検討していきます。
製造業におけるリードナーチャリングの3大手法と活用戦略
前回のセクションでは、リードナーチャリングが製造業にとってなぜ重要であり、どのような課題に応える手段となりうるかを解説しました。ここからは、より実践的な視点として、代表的な3つの手法──メールマーケティング、セミナー、インサイドセールス──について、製造業ならではの事情を踏まえた使い方を掘り下げていきます。
メールマーケティング:製造業の技術情報を「資産化」する手段
メールマーケティングは、ナーチャリングの王道ともいえる手法です。特に製造業においては、製品情報、導入事例、技術コラムなど、専門的かつ読み応えのある情報をコンテンツとして持っている企業が多く、それらを「定期的に届ける仕組み」に落とし込むだけで、強力なナーチャリングの基盤が築けます。
ポイントは、「一斉配信」と「パーソナライズ」を両立させる設計です。例えば、すべてのリードに同じ技術情報を配信するのではなく、「展示会で関心を示した業界別」「自社サイトで〇〇製品を閲覧した人」など、興味関心に応じてセグメントを分けたステップメールを構築することで、開封率・クリック率の向上が見込めます。
製造業では、1通のメールで即座に問い合わせが来ることは稀です。しかし「継続して情報提供をしている」「困ったときにすぐ思い出してもらえる」というポジションを取ることで、半年後、1年後の商談につながる可能性は確実に上がります。特に展示会や名刺交換で得た“名ばかりリード”の活用に悩んでいる企業ほど、メール施策は投資対効果の高いチャネルとなります。
セミナー:信頼の土壌を耕す教育型マーケティング
続いて紹介するのは、セミナーです。製造業においては、自社の製品特性や加工技術を十分に理解してもらう必要がありますが、それを口頭やメールだけで伝えるのは限界があります。だからこそ「知識を体系的に提供する場」としてセミナーは極めて有効です。
特に最近は、オンライン形式のWebセミナー(ウェビナー)が定着しつつあり、遠方の見込み客や多忙な技術者層にもアプローチしやすくなりました。例えば、加工工程のノウハウ、設備選定のポイント、他社事例などをテーマに据えると、単なる製品紹介ではなく「課題解決の伴走者」としてのポジションが確立できます。
ここで大切なのは、セミナーを「売り込みの場」と考えないことです。購買意欲の高い参加者だけでなく、まだ情報収集段階のリードに対しても価値提供ができるような中立性・教育性のある構成にすることで、信頼関係の構築につながります。また、セミナー後にアンケートや資料請求フォームを設けてフォローアップ施策に移行すれば、より購買に近いアクションを誘導する導線ができます。
製造業においては、技術的な優位性を数字で訴えるだけでは響かないケースも多くあります。「導入に至った理由」「選定時に不安だった点」など、実際のユーザーの声を盛り込んだセミナー構成にすることで、同業他社の課題解決に直接刺さるコンテンツとなります。
インサイドセールス:人の介在による“温度感”の把握
3つ目の手法が「インサイドセールス」です。これはメールやセミナーといった非対面型施策では拾いきれない、見込み客の“熱”を把握し、的確なフォローにつなげるための人によるアプローチです。具体的には、リードの属性や過去の行動履歴をもとに、電話やメールで接点を持ち、状況のヒアリングや次のステップへの橋渡しを行います。
製造業では、意思決定プロセスが複雑であるがゆえに、タイミングを逃さない接触が非常に重要です。「ちょうど設備更新の検討に入ったところだった」「Webで見て気になっていたが、こちらから連絡するほどではなかった」というリードに対して、インサイドセールスが“きっかけ”を提供することで、大きな商談に発展する可能性があります。
この手法の真価は、「情報収集段階にいるリード」を手放さずに済むことにあります。営業現場ではついホットリード(今すぐ買う層)に集中しがちですが、インサイドセールスは「まだ今ではないが、将来性がある層」を把握し、データと人の目の両面からナーチャリングの中核を担う存在となります。
また、MAツール(マーケティングオートメーション)と組み合わせれば、Web閲覧履歴やメールの反応からスコアリングしたうえで、温度感の高いリードだけにインサイドセールスが対応するといった合理的な運用が可能です。
成功事例に学ぶ:製造業がリードナーチャリングを成果に変えるには?
リードナーチャリングの必要性と主要な手法について理解が深まったところで、次は「実際に成功を収めた企業は、どのようにこの仕組みを活用したのか?」という視点で見ていきます。製造業に携わる皆さんにとって最も気になるのは、やはり“再現性のあるリアルな事例”ではないでしょうか。
ここでは、日本電気株式会社(NEC)、株式会社シンフィールド、株式会社マックスプロデュースの3社による具体的な施策とその成果を通じて、製造業でも実践可能なナーチャリングの形を解説していきます。
NEC:BIソリューションの拡販における全社横断型のナーチャリング戦略
まず紹介するのは、日本を代表する総合IT企業であるNECの事例です。NECは、自社が提供するビジネスインテリジェンス(BI)ソリューションの販路拡大を目的として、製造業を含む企業層に向けたリードナーチャリング施策を展開しました。
NECが注力したのは、「行動ログを基点とした関心度評価」と「その後の的確な営業連携」です。自社運営のビジネス情報サイトで製造業関連の見込み客を抽出し、彼らに向けて定期的なメール配信を行いました。この段階でWeb上の行動履歴を取得し、特定ページへのアクセス回数や資料ダウンロードなどのアクションをスコアリング。そのデータをもとに、関心度の高い層を選別し、営業へアプローチの指示を出すという流れを構築しています。
結果として、ナーチャリング施策の実施期間中に30件以上の商談が発生。従来のダイレクトマーケティングと比較して、商談化率は2倍近くに跳ね上がったという事実は見逃せません。
NECの成功から導かれるポイントは、「メール=通知手段」ではなく「関心度を可視化する装置」として活用したことです。これは製造業でも十分に転用可能な視点であり、自社サイトとMAツールを連動させることで「誰がどんなテーマに関心を持っているのか」を浮き彫りにできれば、営業は“確度の高い相手にだけ会いに行く”という本来あるべき姿に近づくのです。
シンフィールド:名刺データを“活きたリード”へ変えたメール戦略
次に紹介する株式会社シンフィールドは、営業活動や展示会を通じて獲得した名刺の利活用という、極めて現実的な課題に直面していました。単なる接点獲得に終わっていた名刺を、ナーチャリングによって成果につながる見込み客へと変換していったプロセスは、多くの製造業にも応用できるものです。
彼らが実践したのは「2段階のメール戦略」です。まず、定期的に配信する“お役立ち系メール”で興味を育て、一定期間後に“引き上げ目的のメール”で行動を促す。この2種のメールを交互に送りながら、クリック履歴などから関心の高い顧客を抽出し、タイミングを見計らって電話によるフォローを実施しました。
さらに、週1回の名刺データ入力を営業担当者の習慣とし、蓄積された情報をもとに配信先をセグメント。結果として、アポイント成功率は10~15%、アポイントからの受注率は5件に1件という高い成約率を実現しています。
ここで注目すべきは、“ナーチャリングは蓄積型施策である”という点です。メール配信に即効性を求めるのではなく、定期的な情報提供と反応データの蓄積によって、顧客の状態を可視化することが本質です。製造業の営業現場にありがちな「名刺を集めてもその後の接触がない」という課題は、このようなメールベースの仕組みによって解決に向かう可能性が大いにあります。
マックスプロデュース:タイミングを逃さないためのオウンドメディア戦略
最後に紹介するのは、イベントの企画・制作を手がけるマックスプロデュースの事例です。彼らが抱えていた課題は、まさに「検討のタイミングを逃してしまう」というもの。イベント業界では、年に1度の社員総会など、企画の検討時期が短く、かつ担当者が他業務と兼任しているため、顕在化したニーズをつかむのが難しいという構造的な問題があります。
この課題に対し、マックスプロデュースはオウンドメディアの立ち上げに踏み切りました。社員総会の事例紹介、演出アイデア、無料ダウンロード可能なレイアウトサンプルなど、検討初期段階の担当者が“調べたくなる”ようなコンテンツを整備。さらに、資料ダウンロード時に企業名や担当者情報を取得することで、見込み度の高いリードを自動的に選別しました。
この事例が製造業にとって示唆に富むのは、「顧客が自分で調べ始めた段階」に企業側が“自然とそこにいる”状態を作ったことです。これは技術的に高度な製品や、導入決定までに時間がかかる商材を扱う製造業においても同様で、初期段階のリサーチフェーズにおける顧客接点を意識したコンテンツ整備の必要性を改めて確認できます。
以上の3社に共通しているのは、「手法の選定」ではなく「構造の設計」にこだわっている点です。ただメールを送る、ただセミナーを開くのではなく、それらを連動させて、顧客の関心度に応じた最適なタイミングで、最適なコンテンツを届ける。その“仕組み化”がリードナーチャリングの肝であり、属人化しがちな営業活動の限界を突破する鍵でもあります。
リードナーチャリングを製造業に根付かせるための仕組み化と実行設計
前章で紹介した3社の事例に共通していたのは、単なる一時的な施策ではなく、「仕組みとしてのナーチャリング」を構築していたことです。製造業にとっても、属人的な営業活動やイベント依存型のマーケティングから脱却し、持続可能なリード育成のサイクルを持つことは、今後の収益基盤を安定させる上で極めて重要です。
ここでは、製造業がリードナーチャリングを社内に定着させ、確実に成果を出すためのプロセス設計、ツール活用、体制づくりについて解説します。
ステップ1:全体像を設計する──目的と流れを“可視化”せよ
まずは「何のためにナーチャリングを行うのか?」を明確にする必要があります。目先のCV(問い合わせ)数やセミナー参加者数ではなく、「受注確度の高いリードをどのように醸成していくのか?」という長期的な視点でプロセスを設計することが出発点となります。
このとき役立つのが「カスタマージャーニーマップ」です。顧客がどのようなステップで製品導入を検討し、比較し、最終判断に至るのか──このプロセスを「認知」「興味」「比較検討」「意思決定」「購入後」に分け、それぞれの段階でどんな情報が求められるかを整理します。
製造業では、認知・興味段階での情報発信(オウンドメディアや展示会フォロー)、比較検討段階での導入事例や技術資料、意思決定段階でのROI提示などが重要な要素になります。この全体像をチーム内で共有して初めて、具体的なコンテンツ制作や営業連携が“戦略的”に進むのです。
ステップ2:必要なツールを選定する──MAとCRMはもはや必須インフラ
ナーチャリングを効率化するには、「手動では限界がある」ことを前提に、ツール導入を検討すべきです。特に製造業のように営業担当の人数が限られていたり、顧客層が広範だったりする場合は、MA(マーケティングオートメーション)ツールとCRM(顧客管理システム)の活用が極めて効果的です。
MAツールの役割は「リードとの接点管理と自動化」です。具体的には以下のような機能があります:
- メール配信の自動化(ステップメール・反応による出し分け)
- Web上の行動トラッキング(閲覧ページ・資料DL・クリック)
- スコアリング(興味度・購買意欲の数値化)
- セミナー・フォーム・アンケートの統合管理
これにより、例えば「特定の製品ページを2回以上見た人にだけ、導入事例を自動送信する」といった施策が可能になります。これまで営業担当が“感覚的”にやっていた顧客判断を、データドリブンに行えるようになるわけです。
一方、CRMは「営業活動の一元管理と連携」の中核となります。製造業の場合、購買判断に複数の担当者が関与するケースも多く、誰がどの企業にいつ連絡したのか、どのフェーズで止まっているのかといった情報の可視化は必須です。
ツール選定時には、「自社の営業スタイルに合うこと」「シンプルな操作性」「サポート体制が整っていること」の3点を重視しましょう。予算に余裕がない企業には、国産のMAツール「List Finder」や無料版がある「HubSpot」などもおすすめです。
ステップ3:社内体制の整備──マーケと営業の“連携”が鍵
仕組みが整っても、それを使う「人と組織」が動かなければ意味がありません。ここで製造業が陥りやすいのが、“マーケティングは広報やデジタルチームの仕事、営業は営業部の仕事”という縦割りの思考です。
しかしリードナーチャリングの本質は、「営業の成功確率を高めるマーケティング」なので、両者の連携が不可欠です。メール配信結果やWeb閲覧データを営業が活用し、逆に営業が現場で得た声をマーケがコンテンツ改善に反映する。これがナーチャリングのPDCAです。
たとえば週1回の「営業・マーケ合同会議」で以下のような内容を共有するだけでも、連携は大きく進みます:
- 先週のメール開封率/クリック率
- 新たに高スコアとなったリードの一覧
- 展示会で獲得した名刺に対する反応
- 営業現場で受けた質問・課題感の共有
また、営業担当が名刺情報や商談状況をタイムリーにCRMに入力することも重要です。「ナーチャリングの成果は現場にある」という意識を全社的に持つことが、長期的な成果へとつながります。
ステップ4:小さく始めて大きく育てる──ナーチャリングの浸透は“徐々に”
最後に強調したいのは、「完璧な仕組みを最初から作ろうとしない」ことです。リードナーチャリングはあくまで長期的に育てるものであり、必要なのは“今できることから始める姿勢”です。
- 名刺データをExcelで整理し、週1のメルマガ配信から始める
- 月1回の技術コラムをブログにアップする
- 興味の高そうな見込み客に営業から電話を入れる
こうした「実行できる小さな施策」を繰り返すうちに、配信対象が蓄積し、データが集まり、行動履歴に基づいたセグメントが形成され、最終的には自社に合ったナーチャリングの“型”が出来上がります。
製造業においては、「大規模なマーケティングは難しい」「営業がメインなので」といった声も少なくありません。しかし、たとえ1人マーケターから始めたとしても、ナーチャリングの仕組みは確実に武器になります。なぜなら、“売り込まなくても売れる状態”は、再現性のある資産となるからです。
リードナーチャリングが描く製造業の未来と、今日から始める第一歩
ここまで、「製造業 × リードナーチャリング」をテーマに、基本的な考え方から具体的な手法、国内企業の実践事例、そして仕組みとして定着させるための設計やツール活用までを体系的に紹介してきました。本章では、これらを俯瞰しつつ、製造業にとっての“ナーチャリングの本質”を再確認し、これからどのように一歩を踏み出すべきかを提言します。
“営業起点”から“顧客起点”へ:変わりゆく製造業の購買プロセス
まず認識すべきは、製造業における購買行動そのものが変化しているという事実です。かつては「展示会で営業担当に説明を受け、信頼関係を築いた企業と契約」という流れが王道でした。しかし今や、技術者や担当者自身がインターネットで情報収集を行い、複数の企業を比較し、自社にとって最適なパートナーを選び取る時代です。
そのなかで営業部門が顧客と接点を持つ頃には、すでに選定候補が絞られていることも少なくありません。つまり、「出会ってから売る」のではなく、「出会う前に選ばれているかどうか」が勝負の分かれ目なのです。ここでリードナーチャリングの重要性が浮き彫りになります。
ナーチャリングとは、顧客が自らのペースで情報を探し、理解し、納得して選択する過程を企業側がサポートする営みです。押しつけでも待ちの姿勢でもなく、「必要な時に、必要な情報を、適切な形で届ける」ことによって、信頼という土台が築かれていきます。この土台こそが、今後の製造業にとっての新たな競争力となるのです。
ナーチャリングは“時間”に投資する行為である
リードナーチャリングは、即効性のある施策ではありません。今日始めたからといって、明日商談が増えるものではない。だからこそ、多くの企業が「やりたいけれど着手できていない」「過去に試したが成果が見えにくくやめてしまった」という状況にあります。
しかし、見込み客の検討期間が数ヶ月〜数年単位である製造業こそ、時間を味方につけるべきです。商品や技術を磨くのと同じように、“信頼の醸成”にも時間をかけること。ナーチャリングとは、いわば「時間に投資して関係を育てる営み」なのです。
メールの反応履歴、資料請求の回数、セミナー参加の有無──こうした細かな接点の積み重ねが、ある日突然の問い合わせや大型商談へとつながる。その瞬間を迎えるためには、仕組みとしての継続が何より大切です。
“今いる見込み客”を見捨てない。そのこと自体が差別化になる
製造業の多くは、過去の展示会、セミナー、営業活動で集めた名刺やリードデータを「名簿のまま」眠らせてしまっています。これこそが最大の機会損失です。なぜなら、そのリードたちは「何らかの関心があって接点を持った」貴重な存在であり、きっかけさえ与えれば再び行動してくれる可能性があるからです。
他社が“新規リード獲得”ばかりに注力している今だからこそ、「すでにいる見込み客」に丁寧な接点を持ち続ける企業は、それだけで際立ちます。「この会社はしっかりフォローしてくれる」「情報が分かりやすい」「タイミングを逃さず声をかけてくれる」──こうした印象が選ばれる理由になります。
ナーチャリングの継続は、短期の成約を見込むためだけではありません。中長期的に見たとき、自社のブランドと信頼性を構築する行為そのものであり、「この会社は信頼できる」という無形の資産を育てることでもあるのです。
製造業が今すぐやるべき3つのアクション
では、この記事を読み終えた今、製造業の皆さんが“今日からできること”は何か。以下に3つの現実的なアクションを示します。
- 過去の名刺・リードデータを整理する
過去1〜3年で得た名刺情報、セミナー参加者、資料請求者のリストを洗い出し、リスト化してください。それだけで「育成対象」が明確になります。 - メールマガジンを月1本でいいので始める
製品の開発裏話、よくある課題の解決法、他社の導入事例など、読者にとって価値ある情報を届けるメールを、まずは月1本出しましょう。反応が得られたら次のアクションにつながります。 - 営業・マーケティングの連携ミーティングを設ける
営業部門とマーケティング部門(あるいは兼任の担当者)が週1回でも情報共有の場を持ち、顧客の動きや配信内容の振り返りを行うだけで、ナーチャリングは“孤立した施策”ではなくなります。
ナーチャリングは、“今ここ”にいる人と向き合うこと
リードナーチャリングとは、大げさな話ではなく、「今ここにいる見込み客と、どう向き合うか」という地道で誠実な営みです。製造業が持つ“丁寧なモノづくり”の精神は、そのままナーチャリングにも活かすことができます。顧客の声に耳を傾け、必要な情報を届け、長く信頼される存在となること──それが、営業や製品開発と並ぶ「売上を支える力」として育っていきます。
さあ、今この瞬間にも、あなたの会社のことを思い出してくれるかもしれない見込み客が、どこかにいます。その人に、もう一度声をかけてみませんか?