- インサイドセールスの基本定義
- 製造業でインサイドセールスが注目される理由
- フィールドセールスとの役割分担
- 製造業における導入事例(要約)
- インサイドセールス導入のステップ〜製造業のための実践ガイド〜
- ステップ1:導入目的と役割の明確化
- ステップ2:シナリオ設計と運用ルールの明確化
- ステップ3:KPI(成果指標)の設定
- ステップ4:担当者のアサインと教育
- ステップ5:ツールの選定と運用体制の整備
- インサイドセールス運用の改善ポイント〜製造業が成果を伸ばすための6つの視点〜
- 1. 商談化できた/できなかった数値の把握
- 2. 受注できた/できなかった案件の追跡
- 3. 各プロセスの細分化によるボトルネック特定
- 4. 成功事例の横展開とナレッジ蓄積
- 5. 顧客との連絡方法と頻度の最適化
- 6. フィールドセールスとの連携強化
- 製造業における注意点
- インサイドセールスの失敗事例と成功パターン〜製造業が導入で成果を出すために〜
- よくある失敗パターン
- 成功事例から学ぶ:製造業での立ち上げ・運用の実践例
- 3. 製造業でインサイドセールスを成功させるためのまとめ
- 製造業にこそインサイドセールスは強い武器になる
インサイドセールスの基本定義

インサイドセールスとは、主に電話・メール・Web会議など非対面の手段を活用し、見込み顧客との関係構築や情報収集を行う「内勤型の営業活動」です。製造業では、技術系の専門知識や製品仕様に関する深い理解が必要なため、従来は訪問営業(フィールドセールス)が主流でした。
しかし、以下のような背景からインサイドセールスの導入が進んでいます:
- 人手不足と属人化の限界:営業担当の退職や異動で顧客対応が滞るリスク
- 顧客接点の多様化:Web経由の資料請求や展示会後のフォローアップが重要に
- 遠隔地・海外拠点との効率的な連携:移動コストや時間の削減ニーズ
製造業でインサイドセールスが注目される理由
- 長期的な関係性構築に強み
製造業の営業では、検討期間の長いBtoB取引が多くを占めます。インサイドセールスでは、短期でのクロージングを求めず、段階的に興味喚起 → 課題把握 → 商談化と進められるため、確度の高い商談を生み出すことができます。 - 営業と技術の橋渡しが可能
製品説明や仕様相談など、専門的な話が必要な場合も、事前にインサイドセールスが顧客情報を収集・整理し、技術部門や営業技術チームへ的確に橋渡しできます。 - 限られたリソースでの営業効率化
営業一人あたりの訪問件数には限界がありますが、インサイドセールスなら1日に数十件以上の接触も可能。営業工数の最適配分が可能になります。
フィールドセールスとの役割分担
部門 | 主な業務内容 | 主な成果指標 |
---|---|---|
インサイドセールス | 顧客育成、ニーズ把握、商談創出 | 商談化率、架電数、顧客対応数 |
フィールドセールス | 訪問・提案・クロージング、契約交渉など | 成約率、受注件数、売上貢献 |
この分業体制により、インサイドセールスは「質の高い商談の創出」、フィールドセールスは「成約に向けた提案活動」に注力できる環境を整えることができます。
製造業における導入事例(要約)
- A社(産業機器メーカー)
展示会での名刺獲得後、営業フォローが追いつかず。インサイドセールス部門を立ち上げ、資料請求者・名刺交換者へのフォロー体制を整備。結果、営業活動の起点となる有効商談の数が約3倍に増加。 - B社(化学系素材メーカー)
テレアポから脱却し、技術営業の補助としてインサイドセールスを設置。アポイントの質が改善し、訪問営業の1回あたりの受注確度が25%向上。
インサイドセールス導入のステップ〜製造業のための実践ガイド〜
製造業における営業は、技術力を起点とした提案型が多いため、インサイドセールスを導入する際には「商材理解」や「プロセスの明確化」が特に重要です。以下では、実際に社内でインサイドセールスを導入し、機能させるための5つのステップを具体的に解説します。

ステップ1:導入目的と役割の明確化
自社の営業課題を洗い出す
まず最初にすべきは「なぜインサイドセールスが必要なのか?」を明らかにすることです。よくある製造業の営業課題には以下のようなものがあります:
- 展示会・Web経由での問い合わせ後、放置されるリードが多い
- 営業担当が忙しすぎて初動対応が遅れがち
- 技術問い合わせだけで営業判断ができない案件が多い
- 商談化の前段階での選別ができていない
これらのボトルネックを特定し、インサイドセールスの役割を次のように定めます:
- 問い合わせ・展示会名刺などのフォローアップ
- 初回ヒアリング〜情報整理(BANT情報の取得など)
- 案件温度感に応じたナーチャリング(教育・育成)
ステップ2:シナリオ設計と運用ルールの明確化
誰に何を、どうやって届けるのか
製造業では、顧客の購買プロセスが長期化する傾向があるため、「シナリオ設計」が非常に重要です。
シナリオ設計の3要素
- アプローチ対象の明確化
例:展示会参加者、資料請求者、過去の引き合い客 - フェーズ分けと条件設計
例:「資料請求のみ」→興味フェーズ、「質問あり」→検討フェーズ - 提供コンテンツと接触チャネル
例:メールで技術資料→架電→セミナー誘導などの設計
フォロー時のトークスクリプト設計
BANT(Budget=予算、Authority=決裁者、Needs=ニーズ、Timeframe=時期)やCH(Competitor, Human resources)を含むヒアリング項目を整理。技術的要素に偏りすぎず、ビジネス観点でも商談価値を測る視点が必要です。
ステップ3:KPI(成果指標)の設定
インサイドセールスのKPI設計は「行動数」と「質の高い成果」の両輪で考える必要があります。
代表的なKPI指標
項目 | 内容例 |
---|---|
架電件数 | 1日○件、週○件などの接触数目標 |
接続率・対話率 | 電話のつながりや、会話できた割合 |
商談化率 | 有効案件としてフィールド営業に引き渡した件数/架電数 |
フィードバック件数 | 営業現場からの「案件の質」への評価件数 |
KPIは「リードにアプローチする行動指標」と「受注につながる成果指標」の両方でバランスよく追いましょう。
ステップ4:担当者のアサインと教育
少人数でのスモールスタートがおすすめ
製造業においては最初から大規模に始めるより、1〜3人の専任メンバーで始める方が柔軟な対応が可能です。インサイドセールス向きの人材には以下のような特徴があります:
- ヒアリング力が高く、初対面でも信頼を得られる
- 製品知識や導入事例に強い(営業 or 技術経験者が理想)
- 傾聴と状況判断を両立できる(BANT条件の見極め)
外部採用ではなく、社内の営業や技術担当からの配置転換も有力な手段です。
ステップ5:ツールの選定と運用体制の整備
製造業では、顧客管理の属人化がリスクになります。そこで重要なのが以下のようなツールの導入です。
ツール名 | 用途例 |
---|---|
MA(マーケティングオートメーション) | リードの行動分析・一斉メール送信 |
SFA(営業支援ツール) | 営業プロセスの可視化・商談管理 |
CRM(顧客管理) | 顧客情報の蓄積・分析・引き継ぎ |
インサイドセールスが蓄積する「会話内容」「顧客の反応」などの情報は、営業・マーケティング・技術部門をつなぐ中核情報となります。部門を越えて使える体制づくりが求められます。
インサイドセールス運用の改善ポイント〜製造業が成果を伸ばすための6つの視点〜
インサイドセールスの体制を立ち上げた後、課題として多く挙がるのが「運用フェーズでの成果の伸び悩み」です。特に製造業では営業プロセスが複雑で、技術的な理解が必要な分、改善の打ち手も一筋縄ではいきません。
この章では、インサイドセールス運用を“より機能的にするため”の6つの改善ポイントを詳しく解説します。
1. 商談化できた/できなかった数値の把握
なぜ重要か?
KPIで「商談数」や「商談化率」を設定する企業は多いですが、重要なのは“商談にならなかった理由”の分析です。
製造業のよくある未商談理由
- 技術的な質問だけで終わった(=営業対象ではなかった)
- 決裁権者に接触できていない(=Authority不在)
- 競合製品の導入が確定していた
改善アクション
- 商談未達理由のタグ付けをシステムで徹底
- 対話スクリプトの改善(例:「導入済み製品はありますか?」)
2. 受注できた/できなかった案件の追跡
なぜ重要か?
受注に至らなかった=「インサイドセールスでの見極めが不十分だった」可能性があります。受注結果をインサイドセールスにフィードバックする仕組みが必要です。
よくある失注理由の例
- 誤ったニーズ判断
- 費用感のすり合わせ不足
- 提案タイミングのズレ
改善アクション
- 失注理由を営業側からヒアリングし、月次で共有
- インサイドセールスにも受注率連動KPIを設定
3. 各プロセスの細分化によるボトルネック特定
営業プロセス全体を「問い合わせ → 架電 → 接続 → ヒアリング → 商談化」と分解し、どこでつまずいているかを見極めましょう。
改善例
- 架電後の「つながらない問題」:架電タイミングを変更(例:朝9時〜 or 夕方16時〜)
- つながっても「会話にならない問題」:事前にMAデータや閲覧履歴を確認し、適切な話題から入る
4. 成功事例の横展開とナレッジ蓄積
「誰が、どのように成功したか」を“形式知化”して、スクリプトやテンプレートに反映します。
製造業での活用例
- 技術資料送付後2営業日以内に架電 → アポ率が30%超
- 展示会名刺の「役職付き」リードは、架電より先にメールでセミナー招待 → 商談率UP
推奨アクション
- 月に1回の“成功事例共有ミーティング”の設置
- 成功対応を録音・トーク分析して横展開
5. 顧客との連絡方法と頻度の最適化
「どのチャネルを、どのタイミングで、何回まで使うか」がインサイドセールスの成果を大きく左右します。
製造業に多いケース
- 電話より「技術資料付きのメール」の方が応答率が高い
- 初回架電後、1週間音沙汰ないリードには、2回目以降のフォローを手紙+電話にする
改善アクション
- 対象別シナリオを複数パターン用意(例:リード温度別、業界別)
- メールのタイトルや送信時間帯のABテストも実施
6. フィールドセールスとの連携強化
インサイドセールスがうまく回らない最大の原因の一つが「営業との分断」です。
よくある問題
- 営業がインサイドセールスからの商談に“質が低い”と不満を持つ
- トスアップ(引き渡し)基準が共有されていない
改善アクション
- 営業と週1でレビューMTGを実施(案件のフィードバックを共有)
- 商談評価シートを共通フォーマット化し、次回改善に活かす
製造業における注意点
- 技術部門との連携も必須:技術的ヒアリングをする必要があるリードには、エンジニア同席の初回商談設定が効果的。
- 複数拠点・事業部がある企業には、誰にアプローチするかの精査が不可欠:部署違いで時間を浪費しないよう「誰を狙うか」のリスト設計から見直しましょう。
インサイドセールスの失敗事例と成功パターン〜製造業が導入で成果を出すために〜
インサイドセールスは、正しく設計・運用すれば営業組織の強力な武器になります。しかし一方で、構築段階での設計ミスや運用時の見落としによって「形だけの部署」になってしまうことも少なくありません。
この章では、製造業における典型的な失敗事例とその要因を押さえつつ、成功事例から導き出される運用戦略を紹介します。
よくある失敗パターン
ケース① ターゲットの誤設定で成果ゼロ
事例:新規IT商材を扱うA社(製造業)
展示会などで獲得したリードに対し、インサイドセールスを導入。しかし、成果として得られた商談数は月に14件、架電数2000件に対してアポ率はわずか0.7%。
原因:
- 過去の実績(紹介営業)を鵜呑みにし、ベンチャーIT企業ばかりをターゲットに設定
- その層は実は購買力が低く、ニーズもなかった
教訓:
- リード獲得前から「どこに需要があるか」の仮説検証が必要
- 既存客の属性や商談履歴から再構築すべきだった
ケース② フィールドセールスとの役割分担が曖昧
事例:広告代理店B社(中堅製造業クライアントを持つ)
営業リソース不足解消のためにインサイドセールスを導入。しかし、フィールド側が「何をしてもらえるのか」を理解しておらず、逆に対応件数が増えて混乱。数ヶ月でプロジェクトが縮小。
原因:
- トスアップ条件や業務フローが明文化されていなかった
- 成果の定義が「アポ数」だけで、質の判断基準がない
教訓:
- トスアップ(引き渡し)の基準をKPIベースで定義
- フィールドセールス側と初期から共に設計・協議すべき
ケース③ 外注だけに頼りすぎてノウハウが蓄積されない
事例:BtoB機械メーカーC社
外注のインサイドセールス代行会社にすべて任せた結果、立ち上げ時こそ成果は出たが、自社で育成も改善もできず、委託終了と同時に機能不全に。
教訓:
- 外注活用は「立ち上げ支援」「初期設計サポート」と割り切る
- 並行して自社でのノウハウ化(教育・スクリプト設計)を進めるべき
成功事例から学ぶ:製造業での立ち上げ・運用の実践例
成功パターン①:社内連携型インサイドセールス構築(C社)
業種:産業用ソリューションメーカー
- 営業技術チームとマーケが一体化した形でインサイドセールスを設置
- 顧客フェーズ別にコンテンツ(事例、比較表、スペック資料)を配信
- ヒアリング内容から営業が「案件化の確度」を事前評価
成果:
- 商談から受注までのリードタイムが30%短縮
- 初回訪問での技術相談数が倍増(準備済状態で訪問)
成功パターン②:代行支援×自社育成のハイブリッド型(D社)
業種:工場向け部品製造企業(Webからのリード多数)
- 最初の3ヶ月は代行サービスでアポ獲得とスクリプト設計
- 同時並行で社内に専任チームを立ち上げ、代行の会話録音で勉強
- 半年後には完全内製化し、現在も2名体制で稼働中
成果:
- 月間商談数:10→28件(過去最大)
- インサイドセールスから営業への「トスアップ品質」にフィードバック制度を導入
3. 製造業でインサイドセールスを成功させるためのまとめ
失敗しないための5つの原則
項目 | ポイント |
---|---|
ターゲット設計 | 顧客属性を商材別・フェーズ別に精緻化する |
部門連携設計 | フィールド営業・マーケと共にKPI設計 |
スクリプト・育成体制 | 属人化せず、仕組みとマニュアルで共有 |
KPI設計とPDCA | 量(架電・接続)と質(商談率・受注率)の両方で評価 |
ツール活用 | MA/SFA/CRMを導入してナレッジを蓄積 |
製造業にこそインサイドセールスは強い武器になる
インサイドセールスは単なる「内勤営業」ではなく、“戦略的に商談機会を創出する専門部隊”です。製造業のように製品開発・販売サイクルが長く、かつ技術的な接点が求められる業種にとっては、むしろフィールド営業だけで完結させるには無理があります。
営業DX・人的リソースの分散・タイミング重視の営業体制という観点からも、「受注確度の高い案件を営業へトスアップできる仕組み」こそが、次代の製造業営業の成長ドライバーとなるのです。